中小企業では、専任のIT担当者がおらず、他の業務と兼任でWebサイト管理を担っていることも珍しくありません。
そうした状況で、WordPressサイトの保守を社内の担当者だけで続けるべきか、それとも専門の外部サービスに任せるべきか、頭を悩ませている方も多いでしょう。
しかし、サイト保守を怠ればセキュリティ上のリスクが高まり、表示不具合や信頼低下を招く可能性もあるため対応は避けて通れません。
本記事では、WordPress保守を自社対応する場合と外部に委託する場合のメリット・デメリットを比較し、限られたリソースで安全にサイト運営を続けるためのポイントを解説します。
WordPress保守の重要性と主な作業内容
Webサイト運営において、WordPressの保守(メンテナンス)作業は欠かせません。Webサイトは「作って終わり」ではなく、日々の運用・保守が必要です。
特にWordPressは世界中で利用されている分、悪意のある攻撃者から狙われやすい側面があります。適切なメンテナンスを行わず長期間放置すれば、既知の脆弱性を突かれて深刻な被害を受けるリスクが急激に高まります。
つまり、定期的な保守対応はサイトの安全と安定運用のために必須なのです。
WordPress保守の主な作業内容
では具体的に、WordPressサイトの保守とはどのような作業を指すのでしょうか。主な作業内容として、以下のような項目が挙げられます:
1. WordPress本体・プラグイン・テーマの定期アップデート
ソフトウェアを常に最新状態に保ち、既知の脆弱性を修正します。セキュリティパッチの適用は特に重要です。
2. データのバックアップ
万一のトラブルに備え、サイトデータの定期的なバックアップを取得します。データベースとファイル両方のバックアップが必要です。
3. セキュリティ対策・監視
不正アクセスの防止策を講じ、ログや改ざんの監視を行います。ファイアウォール設定やマルウェアスキャンも含まれます。
4. サイトの動作チェック・パフォーマンス監視
ページ表示の不具合や速度低下がないか定期的に確認します。ユーザー体験を損なわないための重要な作業です。
5. サーバ管理と障害対応
サーバの稼働状況を監視し、サイトダウンなど障害発生時には迅速に復旧対応します。
中小企業ではこれらの保守作業を担う人員や時間が限られているため、「社内で対応し続けるのは大変だが、外注するコストも気になる」というジレンマが生じがちです。
そこで次章から、社内対応と外注それぞれのメリット・デメリットを具体的に見ていきましょう。
社内でWordPress保守を行う場合のメリット・デメリット
まずは、自社のスタッフ(兼任担当者など)でWordPressの保守を続ける場合の利点と注意点を整理します。
社内保守のメリット
1. ランニングコストを抑えられる
外部業者に支払う月額の保守料金が不要のため、表面的には費用を削減できます。自社で運用・保守をこなせれば、外注するよりコストを低く抑えられる可能性があります。
担当者の人件費は発生しますが、追加の外注費がかからない点は中小企業にとって魅力でしょう。
2. 社内にノウハウが蓄積する
保守作業を通じて社内担当者のWordPressに関する知見が深まり、企業内にノウハウが溜まっていきます。サイトの仕様や業界特有の要件を熟知した上で対応できるため、細かな調整も自前で行いやすくなります。
万一トラブルが起きても、内部の人間が原因を把握しやすく、問題解決に向けた判断が迅速です。
3. トラブル対応を柔軟に行える
社内担当者であれば部署内のやりとりだけで対応可能なため、外部に依頼するよりコミュニケーションがスムーズです。
直接顔の見える関係で、「この部分をこう直したい」といった細かな要望もすぐ伝えられるため、緊急時にも素早く動きやすいでしょう。他部署との調整も含め、社内完結ならではの融通の利きやすさがあります。
4. 機密情報の流出リスクが低い
WordPressは顧客情報などを管理する用途にも使われます。他社に運用を任せる場合、サイトの管理権限やデータへのアクセスを共有する必要がありますが、社内運用であればその必要がありません。
結果として、社外への情報漏洩リスクを避けられる点もメリットの一つです。特に自社サイト内で顧客データを扱っている場合や、社外にアクセス権を渡せない事情がある場合には、内製の価値が高まります。
社内保守のデメリット
1. 保守対応に時間と手間を割く必要がある
担当者は本来の業務と並行して保守作業を行うため、どうしても工数負担が増えます。
例えば年収600万円程度の社員が月20時間を保守対応に充てると、人件費換算で月に約6万円以上のコストに相当します。こうした見えにくい人件費コストや時間的ロスが、本業の生産性を圧迫する恐れがあります。
2. 専門知識の習得と最新動向のキャッチアップが必須
WordPressやプラグインには日々新たな脆弱性が発見され、PHPやサーバ環境のアップデート対応など継続的な学習が不可欠です。
担当者は保守運用のかたわら技術セミナーに参加したり書籍で勉強したりと、知識習得に時間と費用を投下する必要があります。こうした学習コストは一見すると目に見えませんが、積み重なると無視できません。
加えて、「詳しい人が社内にいないと不安だ」といった心理的負担も伴います。
3. WordPressには公式サポートがなく自己解決が前提
WordPressはオープンソースであり、困ったときに製品メーカーのような公式サポート窓口へ問い合わせることはできません。
不具合が起きた場合、自力でインターネット上の情報を調べて解決策を探す必要があります。幸いWordPressは利用者が多いため日本語情報も豊富ですが、それでも問題解決までに時間を要する場合があります。
専門家の第三者にすぐ相談できないプレッシャーは、担当者にとって負担です。
4. 障害対応が遅れるリスクがある
社員が通常業務と兼任していると、サイトに不具合が生じても即座に対応できないケースが少なくありません。
たとえば夜間や休日にサイトがダウンした場合、担当者がすぐ対応できず復旧が遅れる恐れがあります。対応が遅れればその間サイトは閲覧不能となり、機会損失や信用低下につながります。
また、中小企業では保守担当者が一人のみということも多く、その担当者が不在(出張や病欠等)で対応できない状況も起こりえます。24時間365日の監視体制を個人で担うのは現実的に難しく、担当者不在時に保守対応が止まってしまう点は社内対応のボトルネックです。
外部にWordPress保守を依頼する場合のメリット・デメリット
次に、WordPressに詳しい制作会社や保守代行サービスなど外部の専門業者へサイト保守を委託する場合の利点と注意点を整理します。
外部保守(保守代行)のメリット
1. 専門知識・専用ツールを活用した高品質なサービス
保守を請け負う業者はWordPressの専門家集団です。豊富な知識と専用ツールによって高品質な保守サービスを提供してくれます。
自社では難しい高度なセキュリティ対策やパフォーマンス最適化もプロの手で実施されるため、サイトの安定稼働や表示速度向上が期待できます。言い換えれば、自社に専門家チームを抱えるのと同等の効果を外部パートナーから得られるのです。
2. 社内の負担軽減と本業への集中
保守業務をアウトソーシングする最大のメリットは、社内スタッフの手間が大幅に減り、その分自社のコア業務にリソースを集中できる点です。
日々の更新作業やトラブル監視から解放されることで、「本業に専念でき生産性が上がった」という声も多く聞かれます。月額数万円の外注費が発生したとしても、その投資によって本業でより大きな価値を生み出せるのであれば費用対効果は高いでしょう。
3. 最新のセキュリティ対策や技術動向への対応
専門業者は常に変化するWordPressの技術トレンドや新たに発見された脆弱性情報をウォッチしています。そのため、自社では気づけないリスクにもいち早く対応策を講じてくれます。
例えば「最近流行の攻撃手法に対策したプラグイン導入」や「重大な脆弱性発覚時の緊急アップデート」など、最新の知見に基づいたproactive(先手の)保守が受けられるのは大きな安心材料です。
4. 障害発生時の迅速な復旧対応
外部業者には過去の事例蓄積や対応テンプレートが整備されており、万一サイトに不具合が起きても復旧までの平均時間(MTTR)は比較的短く抑えられるとされています。
実際に「プロに任せたらサーバ障害も1~2時間で復旧して助かった」というケースは少なくありません。
また24時間365日の監視サービスを提供している業者もあり、深夜の障害にも即時対応してもらえるプランを選ぶことも可能です。自社では難しい24時間体制の保守も、外注なら実現できるわけです。
5. 必要に応じた柔軟なサービス選択
保守委託と一口に言っても、サービス範囲やレベルは業者やプランによって様々です。
- ライトプラン: 月1回のアップデート代行と簡易監視のみ
- スタンダードプラン: 定期バックアップとセキュリティ監視
- プレミアムプラン: 24時間監視や障害時の緊急対応までフルカバー
自社のサイト規模や重要度に合わせて無理のない範囲の契約を選べるため、必要な部分だけ外注することも可能です(例えば「通常は社内対応だが、セキュリティ診断だけは専門会社に依頼」など柔軟な使い分けもできます)。
外部保守のデメリット
1. 継続的な費用負担が発生する
外注すれば当然ながら毎月の保守費用が発生します。内容にもよりますが、一般的な保守サービスの料金目安は以下の通りです:
| サイト規模 | 月額料金目安 | サービス内容 |
|---|---|---|
| 小規模サイト | 数千円~1万円台 | 基本的なアップデートとバックアップ |
| 中規模サイト | 2~3万円前後 | セキュリティ監視とパフォーマンス最適化 |
| 大規模サイト | 5万円以上 | 24時間監視と緊急対応体制 |
社内対応なら不要だったこの固定費は、特に予算の限られた企業にとってハードルに感じられるでしょう。また契約内容によっては初期費用やスポット対応時の追加料金が発生するケースもあります。
2. 社内に技術ノウハウが蓄積されない
保守業務をすべて外注してしまうと、社内スタッフがWordPress運用の経験を積む機会が減ります。その結果、技術的な知見が社内に残らないことになります。
将来的にサイト改修やシステムトラブルが発生した際、「自社だけでは対処できない」という状況に陥るリスクも考えられます。外注は便利ですが、一方で自社のITリテラシー向上には寄与しない側面がある点に留意が必要です。
3. 業者とのコミュニケーションコスト
外部のパートナーに任せる場合、日々の連絡や調整に一定の手間がかかります。問い合わせ対応や報告のフローを整備しておかないと、伝達ミスや対応遅延の原因にもなりかねません。
特に保守内容のすり合わせやサイト更新の依頼を都度行う場合、メール・チャットでのやりとりに時間を取られることがあります。社内対応なら即座に話し合えたことでも、外注先との意思疎通にひと手間かかる点はデメリットと言えるでしょう。
4. 委託先の対応品質に依存する
外注したからといって必ずしも万全というわけではなく、サービス品質は業者の技量に大きく左右されます。
もし選んだ委託先のスキルや対応が不十分だと、期待した成果が得られなかったり対応が遅れたりする可能性があります。改善提案の質や障害対応の迅速さなど、あらゆる面で委託先に依存してしまうのは否めません。
このリスクを避けるには、実績や専門性の高い信頼できる業者を慎重に選ぶ必要があります。
5. 情報セキュリティ上の懸念
保守を外部に任せる場合、WordPressの管理画面やサーバへのアクセス権限を業者と共有することになります。信頼性の低い業者に任せてしまうと、サイトデータの取り扱いや秘密情報の管理に不安が残るでしょう。
実際に外注時には守秘義務契約(NDA)を結ぶほか、個人情報保護の認証を持つ企業かどうか等、事前に相手の信頼性を十分確認することが大切です。
もっとも、しっかり選定した専門業者であれば情報管理体制も整っているため、必要以上に恐れる必要はありませんが、この点も念頭に置いておきましょう。
社内保守と外注保守の比較まとめ
上記の内容を踏まえ、WordPress保守を社内で行う場合と外部に委託する場合の違いを主要な観点で簡単にまとめます。
| 比較項目 | 社内保守 | 外部保守(外注) |
|---|---|---|
| コスト | 外注費は不要(人件費のみ) | 月額保守料金が発生 |
| 専門性 | 担当者のスキルに依存 | 専門家による高品質なサービス |
| 対応スピード | 担当者の稼働状況に左右される | 24時間対応可能(プランによる) |
| ノウハウ蓄積 | 社内に知見が溜まる | 社内には残らない |
| 業務負担 | 担当者の負担が増加 | 本業に集中できる |
| セキュリティ | 自社の知識レベルに依存 | 最新の脅威に対応 |
| 情報管理 | 社外へのアクセス共有不要 | 業者との権限共有が必要 |
| 障害対応 | 担当者不在時にリスク | 業者が継続的に対応 |
※上記は一般的な比較です。実際のサービス内容や体制は業者や社内の状況によって異なるため、自社の状況に合わせて検討してください。
どちらを選ぶべき?判断する際のポイント
社内保守と外注、それぞれにメリット・デメリットがある以上、自社にとってベストな方法は状況によって異なります。判断の際には次のポイントを参考にしてください。
1. 社内に十分な知識・リソースがあるか
社内にWordPressに精通したスタッフがおり、サイト規模も小さく保守負荷が軽い場合は、内製でも問題なく回るでしょう。
担当者が保守対応に割ける時間があり、セキュリティ面の知見も備えているなら、コストを抑えるためにまずは社内運用で様子を見るのも一案です。
2. 他業務との兼ね合い
担当者が本来の業務で手一杯だったり、残業や休日対応が常態化しそうな場合は注意です。
無理に社内だけで抱え込むと担当者の負担が大きくなり、結果的に本業にも支障が出かねません。本業への集中度を高めるためにも、リソースに余裕がない場合は外注を前向きに検討すべきです。
特に「サイトのセキュリティ対応までは手が回らない」「更新を怠ってトラブルが起きたら困る」という状況なら、外部の力を借りる価値は高いでしょう。
3. サイトの規模・重要度
ECサイトや会員情報を扱うサイトなど、セキュリティや稼働率が事業継続に直結するサイトは、専門業者による手厚い保守が望ましいです。
24時間監視や高度なセキュリティ対策が必要なケースでは、社内対応には限界があるため外注が現実的な選択となります。
反対に、会社概要の掲載が中心の小規模サイトで更新もほとんど無いような場合は、コストをかけてまでフルで外注する必要はないかもしれません(必要最低限のセキュリティ対策だけ講じておき、スポットで専門家のチェックを受ける程度でもよいでしょう)。
4. 費用対効果
外注費用と社内対応にかかるコスト(人件費やリスク費用)を天秤にかけてみることも重要です。
毎月の保守料金は確かに支出となりますが、例えば「サイトが安定稼働することで得られる集客・売上」と「保守に割いていた社内工数を本業に充てた場合の価値」を考慮すると、外注によるリターンが上回るケースも多々あります。
本業への寄与度も含めて費用対効果を総合的に判断しましょう。
ハイブリッド型:社内と外注の組み合わせも検討を
実は、「完全に社内だけ」「完全に外注だけ」という二択ではなく、両者を組み合わせる「ハイブリッド型」も有効な選択肢です。
ハイブリッド型の例
- 基本は社内で対応し、セキュリティ診断だけ定期的に外部へ依頼
- 日常的なアップデートは外注し、コンテンツ更新は社内で実施
- 通常は外注だが、緊急時の初動対応マニュアルを社内で整備
このように、自社の強みを活かしつつ専門家の力も借りることで、コストと品質のバランスを取ることができます。
まとめ:専門サービスの活用も視野に入れて
WordPressサイトの保守を社内対応にするか外注にするかは一概に決められるものではなく、自社の状況・リソース・サイト重要度を踏まえて最適解を選ぶことが大切です。
社内対応にはコスト面のメリットとノウハウ蓄積の利点がありますが、人材や時間に余裕がない場合は無理をせずプロの力を借りることも検討しましょう。
幸い現在では、中小企業向けにも手頃な料金で利用できるWordPress保守代行サービスが増えています。専門業者に任せれば、面倒な更新作業やセキュリティ対策をプロに一括で委託できるため、サイトが常に安全で安定した状態を維持できます。
その間、社内のご担当者様は本来注力すべき業務に専念できるというメリットも生まれます。外注サービスは決して「贅沢」ではなく、事業継続のための保険と考えることもできます。
大切なのは「保守を疎かにしない」こと
どちらの方法を選ぶにせよ、WordPressサイトの保守を決して疎かにしないことが重要です。定期的なメンテナンスによってこそ、企業のホームページはトラブルなくビジネスに貢献してくれます。
社内対応と外注のメリット・デメリットを正しく理解し、自社に合った形でWordPress保守体制を整えていきましょう。必要に応じて専門サービスの活用も視野に入れ、限られたリソースでも無理なく安全なサイト運営を実現してください。