このマニュアルは、顧客からWordPress障害の相談を受けたWeb制作会社・受託開発会社のスタッフ向けに作成しています。営業、ディレクター、PM、代表者が、緊急時に現場判断で迷わないように、最初の30分から外注判断、引き継ぎ、復旧後の関係維持までを一本の流れで整理しました。

結論から言うと、WordPress障害は「相談を受けた会社」が必ずしも「復旧を実行する会社」である必要はありません。むしろ制作会社にとっては、障害復旧を自社で抱え込むほど不利になりやすい場面が多くあります。

たとえば、制作案件の進行中に緊急障害が割り込めば、本業のスケジュールは簡単に崩れます。障害対応は、担当者の経験値に依存しやすく、属人化しやすい仕事でもあります。さらに、原因を見誤ったまま触ると、復旧失敗だけでなく、改ざんの悪化、証跡消失、顧客事業への追加損害といった信用毀損につながります。月額保守も、見積り上は安定収益に見えて、緊急呼び出し・調査・説明責任まで含めると粗利率が崩れやすいのが実務です。

そこで現実的なのが、制作会社は顧客窓口と制作継続を担い、復旧そのものは専門業者へ外注する体制です。復旧や保守を専門会社へつなぎ、制作会社は顧客との関係を維持しながら、自社の本業である制作・改修・追加開発へ集中する。この設計なら、顧客満足を落とさず、社内の消耗も抑えられます。さらに、紹介マージン型の仕組みがあれば、緊急相談対応を単なる善意で終わらせず、収益にもつなげられます。

本記事は、社内Wiki、Notion、教育資料、印刷配布用マニュアルとして使えることを前提に、チェックリストと表中心でまとめています。障害時は、まず初動対応チェックリストも横に開きながら運用してください。

顧客から相談を受けた時の最初の30分

最初の30分で重要なのは、原因究明より先に被害拡大を止め、無駄な約束をせず、次の意思決定に必要な情報を揃えることです。営業担当でも、技術担当でも、まずは次の順で進めてください。

ここで避けたいのは、「少し見てみます」と軽く引き受けた結果、社内で誰も責任を持てないまま時間だけが過ぎる状態です。顧客は技術的な正解より、すぐに整理され、適切な次の一手が提示されることに安心します。初回返答では、復旧を約束するより、「最短で安全な対応体制を組む」と伝えるほうが信頼を保ちやすいです。

ヒアリング時は、次の4点が最低限の必須情報です。

項目 聞く内容
症状 何が起きているか 500エラー、改ざん、警告表示、管理画面に入れない
発生時刻 いつからか 本日9:20ごろから
直前の変更 更新・移行・設定変更 プラグイン更新、サーバー移転、担当変更
影響範囲 どこまで止まっているか 全ページ、問い合わせフォームのみ、EC決済のみ

情報整理の型が必要な場合は、社内控え用にも復旧依頼テンプレートをそのまま使うと、外注判断までが速くなります。

自社対応 vs 外注の判断基準

制作会社にとって重要なのは、「技術的に触れるか」ではなく、自社で引き受ける合理性があるかです。特に、他社制作物、改ざん案件、事業インパクトの大きい案件は、技術力の問題というよりリスク管理の問題として外注判断をしたほうが安全です。

状況 推奨 理由
制作直後・自社制作物 自社対応 構造把握済みで責任範囲も明確なため
自社制作・1年以上経過 慎重判断 現在状態の把握が必要で、外注のほうが早い場合があるため
他社制作物 外注推奨 構造不明で、調査コストと事故リスクが高いため
改ざん・マルウェア感染 外注推奨 専門知識が必須で、再感染防止まで必要なため
緊急度が極めて高い案件 外注推奨 自社の制作進行が止まり、機会損失が大きいため
顧客の事業規模が大きい 外注推奨 失敗時の損害賠償・信用毀損リスクが大きいため

実務では、次のどれかに当てはまるなら外注優先で考えるのが無難です。

外注を優先すべきサイン 背景
社内で即日専任を出せない 片手間対応になると悪化しやすいため
ログ調査、感染調査、再発防止まで見切れない 見た目だけ直して終わる危険があるため
顧客側の停止損失が大きい 速度より判断ミスのコストが重いため
そもそも保守契約外の案件 責任範囲が曖昧なまま工数だけ増えやすいため

「自社でできるかもしれない」と「自社で受けるべき」は別です。制作会社が取るべき判断は、復旧スキルの有無だけではなく、顧客事業、自社工数、責任分界、再発時の説明責任まで含めて行うべきです。

顧客への外注提案の伝え方

制作会社が外注を提案すると、「うちは対応できない会社なのか」と受け取られるのではないかと心配されがちです。しかし実際には、適切な専門家へつなぐ判断そのものが、プロとしての対応力です。顧客が不安になるのは、外注することではなく、丸投げ感や突き放し感がある伝え方です。

伝えるべき軸は3つです。

伝える内容
安全性 この種の障害は専門復旧業者が最短で安全に扱えること
継続性 制作会社は復旧後の運用・改修・追加開発を継続して担当すること
一体感 顧客をたらい回しにせず、信頼できる1社を紹介して伴走すること

推奨の伝え方は次のとおりです。

「この種のトラブルは、専門の障害復旧業者に依頼するのが最も安全で早いです。私たちは復旧後の運用や追加開発を引き続き担当しますので、トータルでお守りします。信頼できる業者を1社知っていますので、ご紹介できます。」

この言い方なら、制作会社が責任放棄しているのではなく、顧客にとって最適な布陣を組んでいると伝わります。

逆に、次の言い方は避けてください。

NG例 問題点
「うちでは対応できません」 能力不足だけが印象に残るため
「自分でやってください」 顧客満足が大きく損なわれるため
「他をあたってください」 顧客流出の引き金になりやすいため

顧客が求めているのは、復旧作業を誰が手で行うかではなく、「この会社に相談すれば最後まで整理してもらえる」という安心感です。その窓口機能を維持することが、制作会社にとって最も重要です。

外注先選びの基準

外注判断の次に難しいのが、誰へ紹介するかです。障害復旧は単価だけで選ぶと、後から大きな事故につながります。制作会社の立場では、顧客を救えるかと同時に、自社の顧客関係が守られるかも確認が必要です。

チェック項目 確認方法
WordPressに特化しているか サービス内容、実績ページ、発信内容を確認する
過去の復旧実績数 公開実績、事例数、対応領域を確認する
料金体系の明確性 成果報酬、時間制、一律料金のどれかを確認する
緊急対応の応答速度 初回返信目安、営業時間外対応の有無を確認する
復旧失敗時の対応 返金、請求なし、調査費のみなどを事前確認する
契約書の透明性 責任分界、支払条件、秘密保持が明記されているか確認する
制作会社向けパートナープログラムの有無 紹介フロー、精算条件、継続マージンの有無を確認する
新規Web制作を行わないか 顧客の制作案件を奪わない立場か確認する

特に最後の「新規Web制作を行わない業者か」は重要です。復旧や保守を紹介した結果、サイト改修やリニューアルまでそのまま奪われる構造では、制作会社は安心して紹介できません。紹介先がどこまでを自社の責任範囲にし、どこから先をパートナーへ返すかは、事前に必ず確認してください。

外注先候補を評価する際は、次の観点で比較すると実務向きです。

観点 良い状態 避けたい状態
専門性 復旧、感染調査、保守まで一気通貫 制作の延長線で片手間対応
契約 条件と責任分界が明文化 口約束中心
収益性 紹介・継続マージンがある 紹介メリットがゼロ
顧客保全 制作領域を侵食しない 追加制作まで囲い込みやすい

WP Axis パートナープログラムの紹介

このマニュアルの想定外注先として、WP Axis を活用いただけます。WP Axis は、WordPressの障害復旧・運用保守に特化しており、現行のパートナープログラム案内でも、新規Web制作は行わず、制作・リニューアル案件はパートナーへ送客する方針が明記されています。制作会社にとっては、紹介後に制作案件まで失う構造になりにくい点が大きなメリットです。

マージン構造は2本立てです。

項目 内容
障害復旧の紹介 復旧成功時に紹介手数料が発生
運用保守の紹介 契約継続中、月額の20〜30%が継続支払

障害復旧の紹介手数料は固定額ではなく、現行ページでは復旧サービス料金の一定割合という表現になっています。運用保守は月額20〜30%が標準で、紹介見込み数や顧客規模に応じて個別相談のうえ契約時に確定する案内です。詳細はパートナープログラムを確認してください。

制作会社の視点では、緊急障害の相談を受けたときに「対応できないので終わり」ではなく、「信頼できる専門家に最短でつなぎ、復旧後は自社が制作面で継続伴走する」体制を持てることが価値です。このマニュアルの想定外注先として WP Axis をそのまま標準登録しておく運用でも問題ありません。

顧客紹介〜引き継ぎフロー

紹介フローは、担当者ごとの属人的なやり方にしないことが重要です。社内で標準化しておくと、営業担当が受けても、ディレクターが受けても、同じ品質で動けます。

  • 復旧業者に状況を伝達する(復旧依頼テンプレート

実務上の流れを表にすると、次の形です。

フェーズ 制作会社の役割 復旧業者の役割 顧客の役割
相談受領 症状整理、初回返答 なし 状況共有
紹介前 外注判断、許諾取得 なし 紹介可否の承認
引き継ぎ 情報連携、3者接続 調査着手、見積り、復旧方針提示 必要情報と認証情報の提供
復旧後 制作継続、改善提案 保守提案、再発防止 契約判断

ポイントは、制作会社が途中で消えないことです。復旧作業そのものは外部に任せても、顧客にとっての主担当として伴走し続けることで、信頼関係は維持できます。

顧客への請求・契約・責任の整理

障害案件を紹介できない制作会社の多くは、技術より先に、請求と責任の整理が曖昧です。ここが曖昧だと、善意で紹介したはずが、あとで「誰の責任か」で揉めます。最初から次の原則で整理しておくと安全です。

論点 基本形
障害復旧費用 復旧業者から顧客へ直接請求
制作会社の収益 紹介マージンとして受領
制作会社の追加負担 原則ゼロ。紹介と顧客フォローが中心
失敗時の責任分界 契約書で復旧業者と制作会社の責任範囲を明確化

紹介マージンの扱いは、顧客へ透明に開示するか、業者間契約として処理するか、案件の関係性次第です。重要なのは、顧客に不利益な二重請求構造にしないことと、制作会社がどこまで責任を持つのかを文面で固定することです。

実務上は、次の一文を社内基準にしておくと整理しやすいです。

復旧作業の技術責任は復旧業者、顧客との窓口調整と復旧後の制作継続は制作会社が担当する。

この区切りがあるだけで、営業・ディレクター・経営者の説明がぶれにくくなります。

継続的な顧客関係の維持

障害対応は、復旧完了で終わりではありません。むしろ制作会社にとっては、復旧後にどう残るかが重要です。顧客はトラブルのあとほど、「今後も任せられる体制か」を見ています。そこで制作会社が再び、制作・改善・運用設計のパートナーとして残ることが、次の受注や継続契約につながります。

復旧後は、次のような提案が自然です。

復旧後の提案テーマ 具体例
運用設計の見直し 更新ルール、権限整理、緊急連絡先整備
セキュリティ強化 2要素認証、WAF、権限最小化、不要プラグイン整理
バックアップ強化 世代管理、復元手順確認、保管先分散
改修提案 老朽化したテーマ改修、保守しやすい構成への再設計
インフラ改善 SSL再確認、CDN、監視、通知整備

定期フォロー用には、セキュリティ自己診断チェックシートを使うと、顧客との会話が抽象論で終わりにくくなります。障害をきっかけに、保守やリニューアルの必要性を実感している顧客は多いため、制作会社にとってはむしろ関係強化のタイミングです。

技術的な初期確認だけ先に済ませたい顧客には、無料セキュリティ診断を案内して、相談前の材料を揃えてもらう運用も有効です。

社内研修・マニュアル化のポイント

この手の対応は、現場で知っている人だけが動ける状態にすると再現性がありません。顧客の最初の連絡を受けるのは、必ずしも技術者とは限らないため、営業やフロント担当まで含めた運用設計が必要です。

項目 実施ポイント
保管場所 社内Wiki、Notion、共有ドライブなど全スタッフが見られる場所に置く
対象者 営業、ディレクター、PM、代表、サポート窓口まで含める
研修内容 最初の30分の対応、言ってよいこと・悪いこと、外注判断基準
エスカレーション 緊急時に誰へ何分以内に連絡するかを明文化する
紹介先管理 紹介業者、担当窓口、連絡方法、契約条件を一覧化する

社内で最低限決めておきたいルールは次の3つです。

ルール 目的
顧客へその場で復旧可否を断定しない 無理な約束を防ぐため
30分以内の折り返し基準を統一する 顧客不安を減らすため
紹介先を事前登録しておく 緊急時の検索大会を防ぐため

紹介業者リストは、単に社名を並べるのではなく、障害復旧、保守、緊急連絡可否、制作非競合かどうかまで含めて管理すると現場で使いやすくなります。

印刷・社内共有の使い方

このページは、読了型コンテンツというより、社内で保存・印刷して使う実務資産として設計しています。ブラウザの印刷機能からPDF保存し、社内マニュアルの一章として組み込んでください。特に、初回対応のチェックボックスと判断表は、紙でも画面でも使いやすい構成にしています。

おすすめの使い方は次のとおりです。

使い方 効果
PDF保存して緊急時フォルダへ格納 誰でもすぐ開ける
Notionや社内Wikiへ転載 最新版へのリンク管理がしやすい
新人研修でロールプレイに使う 顧客対応の言い回しまで標準化できる
顧客対応マニュアルへ組み込む 営業窓口の品質を揃えやすい

障害時に制作会社が最も避けるべきなのは、善意で抱え込み、顧客も社内も疲弊することです。窓口として信頼を維持しながら、復旧は専門家に任せる。その標準対応を社内で共有できれば、緊急相談は「怖い案件」ではなく、関係維持と収益化の機会へ変えられます。紹介先としては、障害復旧サービスパートナープログラムをあらかじめ社内導線に入れておくと運用しやすくなります。

参考情報(公式・一次情報)